天照大神の姫巫女〜9条と靖国と世界平和〜

天照大神である姫様とその媒体である素人巫女のブログ

地球最後の男、サムソン

その日、サムソンは神が現れるのを粗末な毛布にくるまってひとりぼっちで待っていた。ここは南極にあるアメリカの元アムンゼン・スコット基地である。アメリカ国籍の黒人であるサムソンはとうとう地球上で最後の人類となってしまった。昨日まで一緒に居てくれた女性二人も今朝、「これ以上生きるのは馬鹿馬鹿しいわ」と言ってあっけなく”魂吸い取り器“によって死んでしまったのだ。

「希望が無いからって、何も二人一緒に逝かなくても。」
サムソンは無表情だったが自分一人だけになった事実を前に少し困惑していた。これで本当に神に会えるのだろうか?

地球温暖化がこれだけ進んでも南極はやっぱり寒いや。」
吐く息は白く、かじかんだ手のひらをこすり合せる。
「僕は”魂吸い取り器“なんて使わないんだ」
ぽつりとそう呟いてみる。自分が試験管から生まれた時、こうなる事は皆分かっていたに違いない。だが、サムソンは誰も責める気持ちは無い。
「全て、運命さ。」

第二次世界大戦以降、人類は気が違ったようにとも言える発展・開発を掲げ、地球環境破壊も凄まじく京都議定書やパリ協定などどこ吹く風と言わんばかりに新しい物、新しい事、物質的な豊かさのみを追い求めて猛進して来た。それによって環境は取り返しがつかない程に破壊され温暖化は進み、多くの大地が海面上昇や気候変動によって住めなくなっていったのだった。地上のあらゆる動物は人為的とも言える極端な気候変動や環境破壊に順応出来ず死滅していたし、海洋生物も海水温の上昇と放射能汚染が深刻な状況だった。

人類はと言えば、第二次世界大戦によって爆発的に増えた人口が地球のあらゆる資源を食い尽くし、金銭的で物質的な豊かさのみを追い求め浪費して今の人類滅亡の道筋を決定付けたのだった。しかしその内、世代が変わると人口も減っていき生き方や価値観も変わったが既に人が住める土地は無く、今や遺跡と化している巨大な摩天楼はあまりの高温によって砂漠化し脆くも崩れ去ろうとしている始末だった。

サムソンは今朝の二人との最後の会話を思い返してみる。

「もう私達だけしか居ないのに、これ以上生きるのは馬鹿馬鹿しいわ。」

「貴方が最後の一人になるのよ、サムソン。そうすればアマテラスに会えるじゃない。」

「貴方は会いたがっていたわよね。私はもう眠るわ。」

「私も眠いのよ、じゃあね。」

まるで昼寝をするかのように”魂吸い取り器“で逝ってしまったのだ。自殺は禁じられていたので互いの”魂吸い取り器“のスイッチを押し合ったのである。

確かにこんな最悪な状況でもっと生き延びようとか考えるのは愚かな事かも知れない。しかし、誰も居なくなってしまった今、最早サムソンは自殺も禁じられていたし誰も彼の”魂吸い取り器“のスイッチを押してはくれないのだ。普通ならここで絶望するのだろうが、サムソンはこの時の為にあまり恐怖やパニックを起こさないように脳に手術が施されていた。涙も出なかった。

ただ、アマテラスに会いたい。最後の一人は見る事が出来るという事だった。サムソンは生まれた時から『最後の一人』となんとなく位置付けられていたのでその為に生きていたのだ。そして、本当に最後の一人になってしまった。恐怖もパニックも感じない、というかそう思っても感じさせてもらえない、というべきだろうか。人間らしい反応は失われていた。最早そんな自覚も無かった。

基地にあった古くてボロの毛布にくるまり祈りを捧げる。あまり長い事外に居ては寒いだけかも知れない、そう思った時だった。