私がまだ小学生の頃、それは友人宅からの帰り道、暮れなずむ薄暗い坂道を一人でトボトボ歩いていた時の事です。
「ひめみこ、妾じゃ。」
と誰かに話しかけられるのを感じました。今思えばそれは天照大神である姫様だったのですが、私は聞こえないふりをしようかどうしようか考えて足を止めたのです。
「また何かが話しかけてきたな。」
精神病院の4文字が頭をよぎった時、女の人の声はこう言いました。
「ひめみこ、スサノオじゃ。そなたの幼少の砌(みぎり)、引き合わせたいと思うてな。」
「は?」
と私は言いましたが姫様は続けてこう仰せになりました。
「そなたの許嫁(ゆいなずけ)じゃ。」
私はまだ小学生でしたのでそのお言葉の意味を計り兼ねて怪しみ、訝しげにしげしげと辺りを見渡しました。
「何も無い。でも何かいる。話しかけてくる。しかもわらわのいいなずけだって!?目に見えないいいなずけ!」
正直すごく嫌だなあ、と思いそのスサノオは何処にいるのかと神経を研ぎ澄ませてみると、頭の中にブスッとした顔の中肉中背の男子の姿が見えました。髷を結った髪は若々しいので若者という印象、眼光は鋭く表情は口がへの字になって常に怒ったような面白くなさそうな顔をしている。衣装のイメージは腰ミノをつけていない浦島太郎みたいなイメージで烏帽子みたいな物を被っている。今でもスサノオ様を視ようとするとあの頃と全く同じなのですがまず滑稽な事に新聞の4コマ漫画に出て来るようなシンプルな顔が思い浮かぶのです。
「幼少の砌じゃ。お似合いではないか。」
姫様が優しくそのように仰せになった気がします。しかし私は吹き出してしまいました。
「得体の知れない目に見えない者とどうして許嫁などになれようか?絶対嫌じゃ!!お断りじゃ!!」
思わず地が出て訛りつつも自分は大人になったら普通に結婚して普通のお母さんになるんだ。そう頑なに思ってスサノオを拒絶してからうん10年、未だに独り身でどうやらこのままになりそうな行かず後家の私はこうしてあの時の事を思い出しているのです。
そして、このブログ記事を書いていて改めて自分が結婚出来ない理由を考えてしまうのです。タメイキ。